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2006年4月18日 (火)

昔の額装、今の額装

額装は作品を保存するための方法と何回か書いてきたけど、実は保存額装という考え方が出てきたのは、日本ではここ十年ぐらいの事だったりする。

それまでは極端な話、額はただ飾るための物という感じで、マットさえ入っていなかったり、そうでなければ額の中敷に入っていた厚紙に窓を抜いてマットの代わりに使ってあったりした。
当然、作品を保存するためのノウハウもなかったので、作品が劣化する要素がそのままに額装されていた。

五十年位前にアメリカの美術館等で、ちゃんと保管しているはずの美術品の劣化が問題になり、様々な調査が行われて、それ以降作品を劣化させる様々な要因・・・温度・湿度・使用されている素材の酸性度・ライトの光・壁から発生する様々なガス等などが明らかにされてきた。
そしてその結果を元に文化財保存という考え方と手法が作り出されて実践されてきている。

さっきも書いた通り、日本でもここ十年で作品を保存する事を考慮に入れた素材が数多く出てきた。
P4180007 写真は簡単に紙の酸性度を調べる事が出来る中性紙チェックペンで、二十年ぐらい前の額縁に一緒に入っていたマット紙と、最近のマット紙を調べてみたところ。
このチェックペンは紙が中性からアルカリ性なら紫色のまま変化はなく、酸性ならインクが黄色に変色する。
この通り下に敷いてある最近のマットは紫のまま変化はしなかったけど、上に重ねた古いマットはペンで書いた端から黄色く変色して酸性を示している。
これは別にマットが古くなったからというわけではなくて、この年代の素材は製作工程の問題から酸性である事が多い。
当然というか、この酸性のマット紙で額装された作品は時間とともに酸化して、黄変したりボロボロになったりする。
それに今・昔を問わず作品制作には化学的な画材を使われることが多いので作品自体が強い酸性を持っている事が珍しくない。そういう点からも現在のマット紙は作品の保護の為には欠かせないと言える。

それ以外にも、特に日本では湿度が問題になる。
湿気はカビの原因になるし、ほかにも作品のたるみや油絵のひびの原因になる。
湿度の大きな変化は作品に大きなダメージを与える。
P4180013 そこで最近は調湿紙(SHCペーパー)と言う素材を作品の裏にいれるように額装の際にはお薦めしている。
この紙は従来の乾燥剤などとは違って、湿度が高い時には湿気を吸い、低い時には吐き出して額縁内の湿度を一定に保つ働きをしてくれるし、劣化原因になる化学ガスを吸着して影響を少なくしてくれる。
それになんといっても余計な手間がかからないのが良い。

そういう新しい素材を使える事もあって、昔の・・・それもホンの十年前の額装と今の額装ではその意味も手法も大きく異なっている。
今では多くの額縁メーカーや画材メーカーも作品の保存を考えた素材・画材を開発している。
それでも作品を完璧に保存する方法は今のところ存在しない。
空気に触れれば必ず劣化するし、照明に当てても同じ事。
だから大切な作品には、できるだけ劣化を防ぐ方法を取る事をお勧めしたいと思う。


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コメント

最近必要にせまられて、酸性紙対策について調べております。その際に、ここにある中性紙チェックペンやSHCペーパーを扱ってる業者さんへ
もメールを何度も出しました。
私も知らなかったけど、少ないながらも今でも書籍に酸性紙が使われてる場合があるって。もうびっくり。
蔵書が古いの多いから、脱酸処理せねば。

投稿: Tarmi | 2006年7月16日 (日) 13時51分

新聞紙なんかは今でも酸性です。
チェックペンで試すと瞬時にまっ黄色になります。
書籍の脱酸化には、もうご存知かもしれませんが、アーカイバル・ミストという霧状のアルカリ性緩衝剤を吹き付けて書籍自体の酸性度を下げる方法もあります…が…お値段が少々ね…

投稿: Nenkou | 2006年7月20日 (木) 16時40分

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